28日のブログ

毎月28日に更新します。

嗚呼、我が愛しのデニーズよ

最寄り駅にデニーズがオープンする!

 

その知らせを聞いたのは、私が小学5年生の時である。

私の住む街はちょうど東京の中央部。

いわゆる大都市と呼ばれる場所へのアクセスがよく、なおかつ庭園や植物園などといった自然を有する施設が多くある。

そんな街で、私はずっと育ったきた。

 

ただ一つ難点を挙げれば、近くにあるべきものが遠い。

まず一番近くにあるコンビニが歩いて10分のところにある。

二番目に近いコンビニは距離にすると5分もかからないのだが、なかなか変わらない信号が邪魔をして結局10分かかってしまう。

(その信号は22時以降になると押しボタン式になる)

 

マクドナルドもない。ないというか、なくなってしまった。

以前は駅前と、駅から少し離れたオフィスビルに1店舗ずつあり、どちらも繁盛していたように見えていたが次々と閉店してしまった

両隣の駅にはあるのに、最寄り駅にはないのだ。

近年は友人や職場の同僚と「最寄り駅にマクドナルドがない問題」がしばしば議論に上がるため、どうやら複数の地域でこの現象が起きている模様。

マクドナルドの立地戦略部門の方に一度話を伺ってみたい。

 

しかも私の父はマクドナルドの株を所有しており、半年に一度株主優待として無料券が数セット届く。

その券を使うために隣駅にあるマクドナルドまで、わざわざ足を運ばなければならないのである。

 

基本的に早い安いうまい系の食べ物にあまり労力を使いたくない。

しかし「マックを食べたい」という軽い気持ちを抱いてしまうと「隣駅まで行かなければならない」という現実があるため、私はマックを食べたいという気持ちにならないように自分を厳しく律している。正直、その方が楽である。

また最近では外出先でマクドナルドを見つけると、隙あらば入店するようにしている。

いわば、私の人生においてマクドナルドを摂取できる貴重な機会だからである。

 

都心なのに不便で何もない、そんな街にファミレスができる。

ジョナサンでもなく、サイゼリアでもなく、デニーズ。

初めて耳にするその名前に愛おしさすら感じた。

私はその日から毎日パソコンでデニーズについて調べた。

初めて行った日はこれを食べよう、次はこれで…と考えていると、不思議と心の底から穏やかな気持ちになれた。

 

オープンして数週間、いよいよその時が来た。

私はチラシについていたキャラメルハニーパンケーキの無料券を握りしめ、母と妹と初めてのデニーズへ向かった。

きれいな店内、暖かみのある照明、店員さんの元気な声。そして、その時食べたパンケーキの味を今でも忘れない。

 

それからも私はデニーズをよく利用している。

特に高校生の頃は受験勉強でよく長居をした。

学校の近くにあるデニーズで友人と食事をした後、最寄り駅のデニーズで夕飯まで勉強をするというデニーズとデニーズのはしごをしたこともある。

地元にあるという安心感から、私は他の場所にいても真っ先にデニーズを探すようになっていた。

しかし、なぜか心が満たされない。

最寄り駅のデニーズが一番居心地よいのである。

 

 

そうか。私はデニーズが好きなんじゃなくて、ここのデニーズの接客が好きなんだ。

 

 

季節のおすすめメニューを丁寧に説明してくれる人。

どの店舗よりも早くお冷を注ぎに来る人。

レジでお釣りを渡し終えた後も笑顔で挨拶をする人。

年齢もさまざまで、土地柄お子さんのいる主婦の方や近くの大学に通う学生が多い印象だが、とても丁寧に接客してくれた店員さんが高校の制服を着て帰る姿を見て驚くこともあった。

 

そんな人たちだから、長居をとがめることもない。

それについつい甘えてしまうのが私である。

入試の前日に9時間以上いたこともあった。

それでも何も言わずお冷を注いでくれたり、新しいおしぼりを持ってきてくれた。

 

さすがに申し訳ないと感じた私は、よくデニーズへ一緒に行っていた友人と長居のお詫び・お礼としてディズニーランドで購入したおみやげを渡した。

店員さんは「逆に申し訳ない」と言いながら、優しく微笑んでくれた。

私は自分たちの罪がようやく滅ぼされたことに少し安心した。(滅ぼされたと思うあたりがまだまだ子ども)

すると数分後、その店員さんが再び私たちの前に現れた。

 

「これは私からの合格祝いです。」

 

トレーの上には、2種類のアイスにいちごのトッピングがされたものが2つ。

9時間も居座ったあの日より、申し訳ない気持ちになった。

 

大学生の頃もレポートの〆切が迫ると決まってデニーズへ行っていた。

忘れもしない大学3年生の冬、当時どの授業よりも真面目に受けていたジェンダー論のレポートで上から2番目であるA+の評価をもらえたのは間違いなく最終チェックをデニーズで行ったからだと思う。

 

この頃から他のファミレスで言うところのドリンクバーと同じ制度“ドリンクおかわり自由”はなくなり、店員さんの入れ替えも少しあったが接客レベルが落ちたことは一度もない。

 

2023年、そんな愛しのデニーズが開店20周年を迎えた。

客側として今まで閉店の危機を感じたことは一度もなかったが、チェーン店であっても同じ土地で20年営業を続けられるのは簡単なことではないはずだ。

直近で言えば、飲食店が大打撃を受けたコロナ禍を乗り越えたのは店舗の歴史に刻まれるほどのことと言っても過言ではない。

 

もっとびっくりするのは10年以上働いている店員さんが何人もいるということだ。

おそらく開店当初から働いている人もいるのだろう。

たしかに、とても忙しいランチの時間帯なのに店員さん同士が笑顔で会話しながら仕事している姿をよく見かける。

働きやすい環境のお店に行くのは、客としても気持ちの良いことだ。

 

令和になってもこの街は相変わらず不便である。

自宅付近にコンビニはできず、相変わらず野良猫・タヌキ・ハクビシンが道を横断している。(実話)

ただこの歳になり、住む街の治安の良さは何にも代え難い価値であることに気づく。

近くにコンビニやスーパーがない方がきっと日々穏やかに過ごせるだろう。

 

先日母とデニーズでランチをした際、20周年記念のステッカーをもらった。

店員さんは「これからもよろしくお願いいたします」と言いながら渡してくれた。

 

不便で何もない分、この街はいつも人が温かい。